toggle
長良川ストーリー ロゴ
ここだけ!体験

里山事件簿。郡上の森で大スズメバチと
戦い、食べてみた大人たちの武勇伝

山里の伝統・昆虫食に挑戦。郡上へ移住してきた若者たちが、大スズメバチ狩りに挑戦したストーリー。

どうせやるなら命がけで楽しむ、おもしろ田舎暮らし。
はじめて食べたハチの子の味は?

  • ※本記事には、ハチの幼虫や成虫の写真が含まれます。苦手な方はご注意ください。

 都会の雑誌が伝える「田舎」ではなく、 田舎に暮らす人自身がリアルに発信する冊子「里山の袋」。 おしゃれな写真とユニークな記事で、街に暮らす人々に田舎の魅力を伝えてくれます。発信しているのは岐阜県郡上市の人々。日本「住みたい田舎」ベストランキング(月刊『いなか暮らしの本』(宝島社))で毎年トップ10に入り続ける郡上市は、岐阜県の真ん中あたりにある農山村です。

 この冊子で、ときに無謀ともいえるチャレンジを軽妙に伝えるコーナーがありました。雪山をカヌーで下ってみたり(ボブスレー!?)、熊撃ち猟師と山を歩いてみたり、大人が真剣に川遊びや秘密基地づくりをしたり。

 移住してくる若者を惹きつけているのは、豊かな自然と、それを楽しむ地元の人の遊び心でもあるのでしょう。

 郡上へ移住してきた若者たちが、大スズメバチ狩りに挑戦したストーリーを転載します。
 鮎釣りやイノシシ・シカなどの狩猟だけでなく、ヘボ(クロスズメバチの幼虫)に代表される昆虫採集と昆虫食は、貴重な栄養源であること以上に田舎の人にとっての楽しみだったといいます。
 「ハチの子ってうまいらしい」ということからはじまった、命がけの顛末はいかに。

完全防護のそのワケは

季刊「里山の袋」野良そうそう「晩秋の森で大スズメバチと戦う」より
企画:由留木正之 写真+文:萱場振一郎

 下着の上に厚さ3ミリのネオプレーンのウェットスーツ。
その上にバイクレース用革ツナギやフリース、ジャージ。さらにスキーウェアを着込み、フルフェイスのヘルメットをかぶる。首にはマフラー、手にはスキーグローブをつけ、隙間をガムテープでぐるぐる巻きに固めながら〝きーちゃん※1〟が、ぽっつりつぶやいた。

 「シールドが曇って前、見えないっす。」

 木枯らし吹く晩秋。晴れ渡る空の下、僕らを囲む森の木々はすっかり紅葉を終えて、震えるように枝を揺らしている。気温は8℃。しかし、この郡上市明宝畑佐にある〝山の家〟へ集い、なぜか異常に着膨れして苦しそうな4人の男達は、すでに汗だく。
 

 遡ること、ちょうど48時間前の金曜日。

 きーちゃんの暮らす〝山の家〟のすぐそばの森に、大スズメバチの巣があることが発覚。学術名【Vespa mandarinia japonica】アリ目スズメバチ科の奴らの体長は4cm、日本で最も強烈な毒をもち、攻撃性の高い恐ろしいハチだけど、ハチの子ってうまいらしい、とにかく家にあるだけの服を持って集合だ、ということで話がまとまった。
 

 ハチの巣からおよそ10メートルの地点。手にバトミントンのラケットや、昔ながらの捕虫網を携え、円陣を組む。

「ハァ、ハァ、よし、まずは、きーちゃんが煙幕を、巣穴に突っ込んで、あとはきーちゃんを援護だ、なんか、息が苦しいな。」

①完全装備で挑む
②蜂用煙幕持って突入!

 

 ガチガチの装備で息ができない〝ゆるちゃん※2〟の指揮のもと、行くぞ、と男達は走り出す。ブオン、ブオンと不快な音を立て、数十匹のハチが4人に襲いかかる。速い。奴らがパチンコ玉の様にヘルメットへぶつかる振動を感じながら、夢中でラケットを振り回す。おい、背中についてるぞ。曇って見えません。今だ、チェンソー持ってこい、うわ、向こうから戻って来たぞ、後ろを守れー。で、でた、巣だ。

③唸りを上げ迫り来る蜂!
④切り株を伐り巣を剥き出す
⑤出た!

 

⑥仮死状態の蜂が沢山の巣
⑦これだけ着ました
⑧巣からハチの子取り

 

 走って巣を持ち帰った。ベリベリと急いでガムテープを剥がし、ヘルメットを脱ぐ。かーと大きな口あけて頭の芯まで、キンキンに冷えた空気を吸い込んで叫ぶ。

「おつかれさんでしたー」

 山の家で待っていた仲間は、コンロに薪を焚いてくれていた。巣の後処理が始まる。

 幼虫や蛹を巣から取り出す。幼虫はピンセットで尻を摘んで黒い腹ワタを抜く。このワタがつるんと抜ける気持ち悪さと快感にやみつき。繭は半球体の上部を切り取ると蛹が顔を出すが、たまに成虫になったハチがおるので、要注意。

 フライパンに注いだ多めの油をよく熱したら、幼虫や蛹をそのまま入れて炒る。こんがりきつね色になったら完成。皿に移しながら ゆるちゃんが呼ぶ。よーしできたぞ。

 おいしそう、いただきまーす、と誰もが臆することなく口に運ぶ。調理前に、生きてる蛹をそのまま食べたときは、さすがに勇気がいった。それでもこうなってしまえば、腹ぺこ若い衆には鳥の唐揚げと大差ないようだ。うまい、うまい、あれに似てるよね、エビ。いやピーナッツじゃないか。外はさっくり、中はとろとろの喩え難い味。

⑨つるりとワタをとる
⑩ぞろっと蛹たち こんにちは
いただきまーす
 こんがりうまそう

 いやー、楽しかったな、まさに童心に帰った、ラケットで叩いたときなんて、小石みたいな感触やったねうんぬんと、武勇伝を語り合いながら、ゆっくりと午後の時間が過ぎてゆく。

 快晴でどこまでも青い空からは、いつまでもおだやかな日が差していた。


 
 
  • 注釈:
  • ※1ゆるちゃん>「由留木正之」神戸より郡上へ移住し20年近く。移住者の頼れる兄貴
  • ※2きーちゃん>「北村周」山奥の廃れたキャンプ場に住み着き起業。NPO法人こうじびら山の家代表。
  • ※本記事は、郡上市の季節の情報誌『里山の袋』の連載『野良そうそう』より転載いたしました。
  •  移住を促進するふるさと郡上会 & 季節の情報誌 里山の袋
  • 公式サイト
  •  ※2018年春発行の次号、53号で冊子としては休刊となります。
─── 啓蟄「蝶のゆめ、翅のあと」特集号 ───

2018-03-06

ここだけ!体験フッター
蒲 勇介

ファシリテーター/デザイナー/プロデューサー。
郡上市に生まれ、岐阜市に育つ。
フリーペーパー「ORGAN」の取材中に出会った岐阜の伝統工芸品「水うちわ」の再生をきっかけに、長良川流域のつながりの中にこのエリアのアイデンティティを見出し、流域をつなぐ観光まちづくりに取り組む。

同じカテゴリーの人気記事