インタビュー

岐阜の和傘を
若い女性の感覚で
未来につなげる

 和傘職人の河合幹子さん。ふんわりとした笑顔がステキな女性です。
 和傘づくりの全工程をほぼ一人で手掛け、基本的に一点物の和傘を制作しています。

 和傘は構造が複雑なため100以上の製作工程があり、傘骨を作る「骨師」・紙を貼る「張り師」・油と漆を塗る「仕上げ師」など専門の職人が分業するのが普通で、後継者不足が問題となっています。
 それをほぼ一人で全工程手掛けるのは、いかに大変か、想像に難くありません。
 (現在、少しでも多くの傘を手掛ける為に、ツナギ(ロクロに骨をつなぐ作業)と傘の柄(え)に籐(とう)を巻く作業は、別の方にお願いしているのだそうです)
 しかし、だからこそ紙も竹も糸も全てのバランスをデザインした、河合さんだけのモダンな傘が生まれるのです。

河合さんのブランド「仐日和」の
心躍る和傘

 色が降ってくるような、「蛇の目」。蛇の目とは、輪を白く抜いた模様のものだけでなく、少し細身の、柄のついた傘全般を指します。女性用が多いですが、ものによっては男性でも使えます。 

↑和傘に和傘の柄、というモノトーンの傘は、糸の色も真っ黒ではなく茶色を帯びた色。男性に使ってほしい渋い蛇の目傘を目指したという河合さん。イメージは、ハリウッド俳優のモーガン・フリーマンだそう。

 ↑ 茶色をおびたグレーのストライプは、下から見上げると縞模様が透け、柄に合わせたグレーのかがり糸がシックな印象。
 「着物はもちろん、洋装にも。ほんとはスーツ姿で使って欲しい」と河合さん。

 ←「番傘」はシンプルで少し骨太、男性的な和傘です。
  無漂白の美濃和紙を使った優しい白色に竹の線の美しさが映えます。機能美とはこういうことかと、見惚れる逸品。

 ← 和傘の「日傘」は、雨をはじくための油が塗られていないので、日差しをゆるやかにさえぎってくれます。 

 藍の葉柄の紙と、ミントグリーンの薄い和紙との二重張りになっており、和紙を引き立てるよう、かがり(内側の糸)はさりげなく、控えめに。

傘の中に広がるかがり糸の華。
雨の日を楽しくする先人の知恵

 「かがり(内側の糸)」は本来、傘が開きすぎないよう傘骨の補強をするものですが、それだけでなく傘をさす人に糸の華やかさで楽しい気持ちになってほしい、とう先人の知恵も込められているのだとか。「開けば花、閉じれば竹」とうたわれる和傘の美しさに、大きな役割を果たします。

 河合さんの糸かがりをまぢかで見せていただきました。

 まず、中央に広がる46本の細い竹骨に、糸を通していきます。
 糸の長さは10メートルほどもあります。
 「(結び目の)玉留めが少ない方がより美しいから」というこだわり。
 しかし長いと、慣れた河合さんですら絡みやすく、至難の技だと言います。

 まっすぐに見つめる目、背中、指先、足先全てが一点に集中しています。
 こうやって作品一つ一つに、職人さんの技や想い込められているのだな、と感じる瞬間でした。
 ものの2・30分で美しい模様が仕上がりました。人の手だからこそ生み出せる造形美です。

 この模様は、「かすみかがり」といい、岐阜和傘の定番です。
 地域や職人によっても色や柄が異なり、上に色の違う糸を張る「桔梗かがり」は石川県金沢市などで行われています。

和傘を作る光景が
かつて日常だった岐阜で
技術を受け継いでいく

 江戸時代から和傘の生産地として有名だった岐阜市の加納地区。
 長良川流域は、原料となる良質な美濃和紙や竹、柿渋、えごま油が豊富に入手しやすかったことから地場産業として和傘づくりが栄え、明治~昭和20年代は、月に100万本を超える生産量でした。
 末広がりに開くことから、縁起物として嫁入り道具の定番だった和傘。当時、600軒あった傘屋があちこちで和傘を干す光景は「まるで花のようだった」と言われるほど。傘づくりの光景は、岐阜の日常でした。
 現在残る傘屋は3軒。岐阜は今も和傘の9割を生産しているのです。

 「昔の和傘は、作る人も素材も豊富だったから、斬新な柄や切り絵で描いたものなど、デザインに遊び心があった」と河合さん。
 昔の資料を参考にしながら、今後色々な作品を作りたいといいます。

 河合さんのこれからの夢を伺いました。
  「私は今までベテランの職人さんたちに、自分が何十年と培ってきた技を惜しげもなく伝授してもらいました。
 ゆくゆくは自分もそうなりたい。次にやりたい人がいたら教えてあげたい。
 そして産業として後世に残して行きたいです。

 岐阜の和傘はいままで大量生産がメインで、京都や東京のお店で販売される事が多かったので、しっかりと魅力を伝えてくれる長良川デパートのようなお店は、岐阜県内には今までほぼ無かったんです。
 観光に来てくださった方にはもちろん、和傘という伝統があることを知らない地元の方にも知ってもらえたら嬉しいです。

 私が思う和傘の魅力の一つに、『音』があります。パラパラと和紙にあたる雨粒の音は、洋傘にはない独自の音色。ぜひ、いろんな方に聞いていただきたいですね」

 河合さんは、見た目のやわらかさからは想像できないほど、芯の強さと、まっすぐな和傘への想いを持った方でした。
 皆様も、実際に河合さんの和傘を手にとって、その色や香り、傘を開くときの音などを感じてみてはいかがでしょうか。

河合幹子
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