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「人生は一本の線」。105歳の現役美術家・
篠田桃紅と、長良川のつながり

墨の抽象絵画で世界的に有名な女性美術家・篠田桃紅さん。やりなおしのきかない、一瞬の真剣勝負の線に、人生を重ねます。「百万の言葉より、一本の線が私の伝えたかったことです。」

タイトル画:篠田桃紅《君に》部分

長良川×アーティスト特集

やりなおしのきかない、一瞬の真剣勝負の線。
美術家・篠田桃紅(しのだ とうこう)は、そこに人生を重ねます。

篠田桃紅《静》《静》(1973年)

私の言葉なんて無意味です。
百万の言葉より、一本の線が私の伝えたかったことです。
(『人生は一本の線』幻冬舎、2016年)

書の枠を超え、墨を使った抽象絵画で世界的に評価されている、女性美術家の篠田桃紅(しのだ とうこう)さん。
105歳のいまも現役で、一瞬の筆すじが画面を走る抽象的な作品は、
世界から高い評価を受けています。

また、凜とした生きざまや、心に響く言葉も人気で、
自伝エッセー『一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い』(幻冬舎、2015年)は、
45万部突破のベストセラーになりました。

私はこういう線を引きたいと思って、一本の線を引いた。
しかし現実にできた線は、思った線とは違う。
人生も同じ。
人は、こういうふうに生きたいと思って、しかし現実の人生は違う。
(『人生は一本の線』幻冬舎、2016年)

篠田桃紅《君に》《君に》(制作年不詳)

“岐阜は心のふるさと”と語る篠田桃紅(しのだ とうこう)
幼いころに父と見た、岐阜や長良川の風景。

美濃という古い岐阜の地名が好きだ。
美しく濃い、という字が、私にすぐ墨を連想させる。
毎日使っている墨、何十年つき合い続けて来た、濃い、うつくしいくろの色を持つ墨、
美濃という名は、その、いちばん身近なものを、あらためて私に思い見させるのだ。
(『朱泥抄』PHP研究所、1979年)

《即興》(1953年)
 桃紅は1913年(大正2年)中国の大連で生まれ、
東京で育ちますが、
父親が岐阜市出身、祖母が関市出身ということもあり、
近年まで本籍は岐阜にあって、
幼いころから折々に岐阜を訪れ、
岐阜の地を「心のふるさと」としてきました。

家庭では父の影響で盆には岐阜提灯を飾り、
岐阜の美濃紙や食べ物を取り寄せるなど
岐阜の文化に触れながら育ちます。

父の手ほどきにより、桃紅が初めて墨と筆に触れたのは6歳のとき。
厳格な父のもと、幼いころから
漢詩や和歌、書の素養を身につけます。
作風が独自の抽象表現へと大きく飛躍したのちも、
墨と筆を離すことはありませんでした。

篠田桃紅
「墨のふるさと」”美濃”は桃紅とってまた「紙のふるさと」でもあります。
母から貰う「二つ折りした美濃紙一帖四十八枚」のあたたかさ、やわらかさ、かるみ。

書いた文字の色が引き立つ「少し大判の美濃紙」で桃紅は墨の色を知り、
そのやわらかさ、あたたかさが後々まで桃紅を導いていきました。

流れるように描かれた墨のみせる多彩な表情

墨の 淡い 濃い にじみ かすれ。
線の 重なり 広がり。

篠田桃紅《水》(2001年)

墨に親しみ、墨になじみ、墨をたよりにし、墨に誘われ、操られ、惑わされ、裏切られ、
また墨に救われているうちに老いた。
だが、まだ墨とのつき合いは終わらない。
(『桃紅 私というひとり』世界文化社、2000)

長い作家人生のなかで、多彩な表現を重ねながら、向き合い続ける「水」と「墨」。

流れる川のように天候や湿度に左右されながら様々な表情を見せる水墨が、綿密に検討を重ねられた構図の中にもたらす一瞬の奇跡。

そんな水と墨が折々に紡ぎだすかたちに、
ある時は自身の卑小な作為のあとを見、
またある時は
思いがけぬ美しさを見出してきた
といいます。

作家にとって、明瞭なかたちをもたない水と墨は自身の心を映す鏡でもありました。

篠田桃紅《暁/昏》(2007年)

創作の軌跡を見られる
「淡墨」(うすずみ)をテーマにした企画展が、
2018年3月23日まで、関市の岐阜現代美術館で開催されています。

「桃紅の作品には具体的なモチーフがありません。
表現されているのは内なる風景がもつ普遍的な美しさです。
観る方によって感じ方は様々。
感性のままに鑑賞して頂ければ」
と語るのは学芸員の宮﨑さん。

篠田桃紅《時間》(1958年)

凛とした手から打たれた、墨一閃。
一本の線が湛える、豊潤な世界。

淡い墨色がこんなにも多彩な表情をみせるのか、と思わずため息がもれる作品の数々が並びます。

多くの人があこがれる、桃紅の「美しく濃い」生きざま

とめどなく流れる水。刻一刻と姿を変える清流・長良川。

 「心のふるさと」と思慕する岐阜の地を流れるこの川のようにありたいと、常にかたち変える「水」と「墨」に向き合い、美しい作品を紡ぎ出す桃紅の生き方。
 こうした強さや美しさが、移ろいゆく日常の中に内なる風景を埋没させながら過ごす私たち現代人を魅了してやまないのかもしれません。

 誰もが心のうちに湛える「ふるさと」の風景を、今一度彼女の作品を通して見つめなおしてみてはいかがでしょうか。
長良川

篠田桃紅
 篠田桃紅 / Toukou Shinoda >

1913年、中国・大連生まれ。
幼少期に父から書の手ほどきをうけ、戦後本格的に創作活動を開始。
既成の書の枠にとらわれず、水墨の可能性を極限まで追求した抽象表現は、世界中で高い評価を得ています。
岐阜現代美術館(関市)にて企画展「墨に生きる 淡墨」開催中(~2018年3月23日)。
2018年4月21日からは国内初となる大規模展覧会を
上田市美術館サントミューゼ(長野県上田市)にて開催予定。
岐阜現代美術館

─── 春分「分かつ。つなぐ。線の美」特集号 ───

2018-03-21

meetsフッター
淺野 草平

札幌生まれ農業育ち。千鳥足の人生の末、岐阜に流れ着く。
山と川が近く程よい規模感の岐阜の町が好き。
フィールドワークに明け暮れた学生時代の経験を研ぎ澄ませながら、長良川流域を上から下までくまなく巡り魅力をお伝えします!