魚との知恵比べ。伝統漁法で落ちアユを捕る-(2)

 産卵のために、上流から下流にくだってくる(アユ)を「落ちアユ」と呼びます。

中流から下流にかけて行われる「瀬張網漁(せばりあみりょう)」

 岐阜市を流れる長良川では、産卵のためにくだる落ちアユを捕る瀬張網漁が盛んです。
毎年、漁が行われている鏡島地区。
夕方前に河原から眺めると、網を持ち瀬に立つ漁師たちの姿が見えました。
10分、20分経っても誰も動きません。
アユの群れが近くまで来る、その時をじっと待っているのです。

 30分くらいが過ぎた頃、一人の漁師が網を投げました。
空中でぱっと広がった半円は、曲線を描いて一瞬で川のなかに。
たぐり寄せる網には何匹も魚が見えます。
伝わってくるずっしりとした重みから、たくさんのアユがかかっていることが遠くからでもわかりました。

 アユを脅して捕える瀬張網漁。
平らな瀬には、横断するように鉄杭が等間隔で打ち込まれ、
ロープが杭と杭とを水面の高さのあたりで結んでいます。
水の流れからロープは弓形になりますが、張力によってもどろうとし、
そのときにぴんと跳ねて川面をぱしんとたたきます。
そして川底には、ロープにそって石を詰めた白いビニールの袋が沈められています。

 上流からくだろうとするアユはこの音と色に驚いて、仕掛けの上流側にとどまります。
その瞬間を漁師は逃さず投網で捕えるのです。

 黒い石のごろごろしたなかに白いラインが映え、
ロープが生き物のように跳躍し、川面をたたく音が連続します。
見ていると面白い、長良川を代表するアユ漁の一つです。

アユがかかり始めたのは、虫の音が響きわたる、夕暮れからの一時でした。

「落ちアユは、西風が吹いて冷え込んでこないと。ヒガンバナが垂れる頃が最盛期」
「天気が崩れたあくる日に魚は来る」。

 網からアユを外していく、漁師の巧みな手さばきを見ながら話を聞いているうちに、
日はすっかり傾き、夜の闇があたりを包んでいました。

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落ち鮎特集

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