魚との知恵比べ。伝統漁法で落ちアユを捕る-(1)

 産卵のために、上流から下流にくだってくる(アユ)を「落ちアユ」と呼びます。

上中流で見られる「やな」


 秋になると、アユは産卵に備えて栄養分を貯え、オスは精巣、メスは卵巣が成熟します。
そして下流で行う産卵のため、遡上した河川をくだります。
このときの落ちアユを捕る漁法の一つにやな漁があり、
長良川の上中流では昔から行われてきました。

 やな漁は、川のなかに石や竹でじょうごのような形の堰をつくり、
流れが狭まったところに竹の簀を設けて、
水の勢いで押し流されてきたアユを捕まえる漁法です。

長良川が流れる郡上市大和町の杉ケ瀬ヤナを訪ねました。
やなを営んで40数年になる森尾清左衛門さんが、
この地に伝わる伝統漁法について説明してくれました。

 この場所は、もともと杉ケ瀬と呼ばれていた瀬で、大正の頃よりやながあったそうです。
それが昭和の伊勢湾台風で流失してしまい、森尾さんたちが復活させたのです。

8月になると10数人が力を合わせ、1週間くらいかけて設営します。
アユが簀に滑り落ちる、まくらと呼ぶ部分の角度やバランスの調整が、
もっとも難しく大事なのだそうです。

 捕りきれないくらいの大漁がやってくるのは、何年かに1回くらいで、一晩中捕り続けることもあるのだとか。
アユがよく入るのは、大雨が降って川が増水したとき。
尾っぽから降りてくだるアユも、大漁のときは頭からやなに飛び込んで来るそうです。

 炭火で焼かれるアユのにおいをかぎながら、長良川を眺め、流れる水の音を聞く。
ごうごうと勢いよく水流が落ちるやなに近づくと、川のもつ力強さに圧倒されました。
先人の知恵が継承されているやなでは、捕れた天然の郡上鮎を味わうことができます。
熱々の塩焼きから魚田、フライ、煮つけと丸ごと食べて、食欲を存分に満たしました。
落ちアユの季節がいよいよやってきました。

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落ち鮎特集

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