〔前編〕「(あゆ)熟れ鮨(なれずし)」仕込み編

塩漬けした鮎の腹に、炊きたてのご飯を詰めて発酵させた「鮎の熟れ鮨(なれずし)」。
保存食として発展した珍味で、香りのよい鮎と発酵したご飯が、さわやかな味わいとなります。お酒との相性も抜群!
秋に捕れた脂身の少ない落ち鮎を使って、「鮎の熟れ鮨」を自宅で仕込んでみました。

秋、大量のオス鮎をどうするか

こんにちは。長良川の申し子・長良川おんぱくプロデューサーの蒲です。

 清らかな上流で夏を過ごした鮎が、初秋になると産卵のために長良川を下ってきます。これを「落ち鮎」と言います。
お腹いっぱいに卵や白子を抱えて群れになってやってくる彼らを、文字通り一網打尽にする爽快な漁が「瀬張り網漁」です。
川底に敷かれた白いラインと、川面をはじくロープの波しぶき。
長良川の美しい景色ですね。
※ 瀬張り網漁については、今回おさかなライター新美さんが詳しく記事を書いてくれています
 ▷魚との知恵比べ。伝統漁法で落ちアユを捕る

ただこの瀬張り網漁にも問題があります。
大量に獲れすぎた(あまり美味しくない)オス鮎どうする問題』です。
もちろん世の中には、子持ち鮎より白子の鮎が大好き!っていう人もいるんだと思いますが、私は一人しか会ったことがありません。

 職業柄、漁師さんの知り合いも多い私は、長良川おんぱくのプログラム(▷こちら前後で毎年、大量の落ち鮎を安く譲って頂いたりするんですが、そもそも落ち鮎は7:3くらいの割合でオスの方が多く、さらにメスは商品価値が高いので漁師さんたちもちゃんと仕分けして売ってしまいますので、落ち鮎をざるでドバッともらうと、オスばかり……。
 秋が深まり11月にもなると、オスの鮎は真っ黒になり、肌触りもざらざらして、塩焼きなどにしても食指をそそりません。(※あくまで個人的な嗜好です)
おそらくかつての長良川周辺の民も、私と同様、秋のオス鮎を持て余したはず。その結果生まれた(!?)食文化がこの「鮎の熟れ鮨」なのではないかと勝手に思っています。
(※長良川の鮎を徳川家への献上品とするための、長期発酵しない熟れ鮨もありましたが、ここではあくまで郷土食文化として)
あとで話を聞いてみると、逆に落ち鮎のオスじゃないと、脂が抜けきっておらず、美味しい熟れ鮨ができないんだそう。うまくできてますね!

鮎の熟れ鮨を作ってみた

長良川おんぱくでは実にたくさんのディープな長良川文化を体験できるわけですが、
かつて

長良川温泉・すぎ山旅館の森料理長による鮎の熟れ鮨作りの体験

鮎の名店、川原町泉屋さんの鮎発酵食体験

などを通して、私も熟れ鮨の作り方を学習しましたので、3年ほど前から個人的にチャレンジしています。
一方で、上記のすぎ山旅館、川原町泉屋さんを覗くと、わずかな宿泊施設と、6人の鵜匠のみが作り続け、伝承しているのがこの鮎の熟れ鮨。庶民にはもはや幻の味と言えるかもしれません。

現在漬け込み中の鮎熟れ鮨、私個人の挑戦の記録を報告します。

///// 鮎熟れ鮨の作り方 /////

材料:鮎(落ち鮎のオス)、塩、水、炊いたご飯、焼酎(消毒用)
道具:包丁、まな板、大きなタッパー、陰干し用の大きなざる、漬物樽、重石、竹皮

1下ごしらえ

 鮎のワタ(内臓)と白子、そしてエラを取り除きます。
お腹を開くと白子が満載。綺麗に取り除きます。
白子は別途集めて、塩辛にしてみました。
!ポイント!この時、お腹に包丁を入れますが、お腹だけでなく、鮎の顎の下まで真っ二つに切り開けるようにします。エラをうまく取り除くためです。エラは、熟れ鮨が生臭くなる原因ですので必ず取り除いてください。
死んだ魚のような目をして鮎たちが見つめてきますが、気にせず作業を続けます。

2塩漬けにする

 まず、鮎から水分を抜き、保存できる状態にするため、塩漬けにします。

鮎の層→塩の層→鮎の層→塩の層といった感じで塩漬けにしていきます。この写真をFacebookにアップしたら、名人の泉さんから「塩が足りない、もっと!」というコメントが入りましたので、もっと入れる必要がありそうです。

最終的には真っ白に塩をかぶせます。

3一ヶ月以上待つ

 タッパーに入れ、塩漬けの状態で冷蔵庫で保管します。
実は塩漬けには、しばらく期間をあける必要があります。
ものぐさな私は、今年は夏越しをすると決めていたこともあり、3か月くらい塩漬け状態で置いておきました。

4塩抜きする。

 タッパーから塩漬け状態の鮎を取り出し、ボウルなどに入れます。
 流水で30分程度塩抜きをします。
正直どのくらい塩漬けされていて、どのくらい抜けばいいのか、私のレベルではまだわかりません。

5陰干しする

 塩抜きした鮎をざるにのせ、陰干しします。
これも、どのくらい干せばベストかはわかりませんが、多少カピってきたかなというくらいに雨が降り始めたので慌てて取り込みました。

6ご飯を炊く

 とにかくたくさんご飯が必要です。
小さい漬物樽に100匹くらいつけ込むためにご飯を1.5升炊きました。

7鮎のお腹に炊きたてご飯を詰め込む

 さあ!詰め込むぞ!ご飯左のスプレーボトルには、焼酎が入っており、器やつけ込み樽などを消毒します。
 結構難しいぞ……はみ出る。あとご飯まだ熱い……(ちゃんと冷ましましょう)
こ、これでいいのだろうか?
鮎の熟れ鮨作りは自分との戦い。
クックパッドにレシピが上がってない以上、自分なりの「ま、いっか」ラインを探さなくてはなりません。

ま、いっか。!ポイント!ご飯はアゴまで詰めましょう。

8樽につけ込む

 まずは、炊いたご飯1合分くらいを水洗いしてざるで水を切り、「洗い米」の状態にします。
なぜかは不明。
この洗い米を樽の底に敷きます。
その後、お腹にご飯の入った鮎の層→ご飯の層→お腹にご飯の入った鮎の層→ご飯の層→と漬け込んでいきます。
 すきまがないように詰めていきます。
 最後の方は、ご飯をかぶせます。
もっとかぶせて鮎が見えないようにします。

9竹皮を敷き、重石を載せ、水を入れ、蓋をする

 写真を撮り忘れました。
後編の「熟れ鮨 解禁!」の回でお見せしたいと思います。

10発酵させる

この状態にして、嫌気性発酵を行い、数ヶ月待ちます。
発酵期間は、熟れ鮨の考え方や地域によって異なります。

現在長良川付近で一般的に行なわれている鵜匠さん達による鮎熟れ鮨は、10月頃塩漬け→11月ご飯と漬け込み→正月に取り出してご挨拶のお遣い物に使う。というのが標準のようで、これはかなりの浅漬けと言えるかもしれません。
少し生っぽさを残し、ご飯粒も形を残しています。

一方で、川原町泉屋さんの手法では、滋賀県の鮒鮨の製法を取り入れ、塩漬け期間、発酵期間それぞれを長く取り、「夏越し」をするため、深漬けになっています。今年私は、このやり方に挑戦しております。

現在 漬け込み9ヶ月たったうちの鮎熟れ鮨。果たしてうまくいっているのか!?
次回「熟れ鮨 解禁!」に続く。