傘の開閉の要となるパーツがもう作れない!?
和傘存続の危機を支えようと立ち上がった人々の想い
『エゴノキプロジェクト』。
なにが驚きかって、ここの部品(ろくろ)は、金属でもプラスチックでも、他の木材でもなくて、エゴノキじゃなきゃ、だめなんです。
そしてそのろくろを作っているのは日本でただ一軒、岐阜の木工所の2名の職人さんしかいないんです。
そして2012年、エゴノキを供給してくださっていた唯一の木こりさんがご高齢で亡くなられ、エゴノキが手に入らなくなるという和傘製作の一大危機に陥りました。
写真の通り、ろくろには細かい切込みと穴が開けられており、そこに和傘の骨を1本1本 糸で通して繋げていくことによって、開閉できる構造になっています。
こんなに細かい切込みであるうえ、負荷がかかる部分でもあります。
エゴノキの特徴は、木目が大変細かく粘りが強いこと。
そのためろくろに最も適した木材になるわけです。
でも他の材料では替えが利かない部品だったり、その方しか作れなかったりして、携わる職人さんは唯一無二の貴重な存在となっています。
『エゴノキプロジェクト』とは?
エゴノキを出荷する唯一の木こりさんがいなくなり、日本の和傘製作が危機であることを受け、岐阜県美濃市にある森林・木材専門の学校「森林文化アカデミー」の先生方を中心に、一年分のろくろを作れるだけのエゴノキを伐採にいく『エゴノキプロジェクト』が2012年に発足されました。
今年で6年目。
毎年1回、エゴノキが成長した11月頃に開催されます。
エゴノキを育成することも未来につなげる大切な役割
岐阜県美濃市片知地区の山に、ろくろに適した優良なエゴノキが自生しています。
岐阜のみならず全国の和傘屋さんや和傘職人さん、森林文化アカデミーの先生、学生さん、地元の林業の方など総勢40名ほどが参加し、4つの班で手分けして伐採しました。
根元から10センチほど切ったところからまた新芽が生えてきて生育するんだそう。
根元の両脇に支柱を2本立て、カバーをかけ留め具をします。根っこがあるのでなかなか支柱が入っていきません。
エゴノキの新芽がシカに食べられて生育が妨げられる食害もあり、今年は伐採した根元からカバーをかぶせる対策も加わりました。
(私は非力すぎて何の役にも立てない予感がしつつも、力仕事覚悟で参加したのですが、ひたすらカバーをはずれないようにする留め具をはめる作業に従事しました。
でもこの留め具、非常に硬くてはめづらくて親指と腕の付けの筋肉を酷使し、翌日予想外の筋肉痛になりました)
この筒の中に落ち葉がたまったり、雪が積もってしまったり、課題はまだあるようです。
エゴノキは、ひとつの根から何本も生えていました。
ろくろにできるのは、真っ直ぐ生えた直径4cm~6cmのエゴノキのみ。
扱いやすい2mの長さに揃えて切ります。
森林文化アカデミーの先生方や学生さんは、持続可能な形で収穫できるよう、伐採方法の研究や生育状況の調査も行っています。
お昼時にはみんなでお弁当。おなじみのメンバーなので和気あいあい。
お昼には、きのこのお味噌汁がふるまわれました。あたたかさが冷えた体に沁みる沁みる。
このきのこ、エゴノキに菌打ちして作られたんだとか。とても美味しかったです。
和傘職人さんたちに「すっごく寒いですからね!!」と脅され、持ち合わせの防寒具をすべて着込んで挑んだ甲斐あって、森林の清々しい空気を気持ち良いと思う余裕もあり、楽しかったです。
普段岐阜以外の和傘職人さんと接する機会がないので、岡山の和傘職人さんや京都の和傘屋さんと交流できたことがとても有意義でした。
岐阜と他の地域で作られる和傘の違いは何か、地域性はあるのか、とても気になるところです。
願わくば、全国の和傘産地をめぐりたい。
目標本数達成!無事1年分のエゴノキ伐採
1、2年乾かして、ろくろに加工されるときまで保管されます。
参加者全員で、エゴノキの前で集合写真。
全国の和傘関係者が一致団結して、和傘の材料を調達するということがどれだけ貴重ですごいことか。
たくさんの方の思いや協力があって作られている美しい和傘。
美しい職人技が絶えることなく受け継がれていくことを願ってやみません。
伝統工芸好きで職人好きの私は、ただただそう思うのです。
岡山の和傘職人さんが作られた和傘を見る長屋さん。
きれいに「ためかけ」してあるそう。
※ためかけとは、竹の骨を火にあぶり、曲がりをまっすぐにすること。
和傘特集