特集|長良川おんぱくでみつけた素敵なストーリー
割烹うおそうで、食べる、聞くの「あゆづくし」
「割烹うおそう」での長良川おんぱく体験プログラム「獲れどころにこだわった濃厚な天然落ち鮎のフルコース」。限定8席のプラチナチケットは、例年リピーターを含め争奪戦になります。アンケートの顧客満足度もとても高く、コメントに「あゆの味はもちろんのこと、大将の話が面白かった」と書いてあるため、おんぱく事務局内でも話題となっていたプログラムです。
あゆが獲れる場所や漁師にまでこだわった天然あゆは、料理ごとに下ごしらえから変えられています。甘酢炊きは骨を抜き、塩焼きは砂の入った内臓を抜きます。田楽ならひれをとって。骨からだしが出るあゆは、下ごしらえの順番も大事です。
割烹のきめ細かな手仕事を目と舌で愛で、耳で大将と若大将の話を楽しむカウンター上の2時間は、驚きの連続でした。
競り場で厳しく天然鮎を見定めて40年以上の大将が、
肌で感じてきた古今あゆ事情を語ります。
長良川のあゆ文化は、地形にヒミツがあった!
―― 大将の話
「全国に比べて、長良川周辺ではあゆ料理の種類が豊富です。ほかの地域では、塩焼き、フライ、甘露炊きの3種くらいです。
どうしてこの地ではこんなにあゆ料理が発展したのか。
それは、長良川に下流から上流まで距離と高低差があるからです。
あゆは1年で一生を終え、海から川へ回遊する魚。
あゆにとって、10日間は人間の一生で言えば4年分に相当します。
河口からこのあたりまで54km。海で育ったあゆは、まだまだ源流まで上っていきます。
その間にあゆがどんどん成長するんです」
(↑ 店の屋上で一夜干しにしたあゆと、盛り合わせ。うまみが凝縮されています。ほかの魚の干物に比べて上品な味わい/ ↑ 甘酢炊き)
昔はね、川漁師はあゆが上っていくのが岸から香りでわかったんですよ
「あゆは、大体2月から3月の水が薄濁りの日に、海から川の上流へと上ります。
鳥や人間が怖いので、姿が見えないように。
でも、昔のあゆはとても香ったので、岸にいる川漁師は香りで『あっ、今日は上ったな』とわかったんです。
秋の落ちあゆ(子持ちあゆ)の頃もですが、出始めの若あゆの頃はとくに香りがものすごくって、料亭の外からでも鮎の香りがわかったものです。青藻の香りですね。キュウリやスイカみたいな、青い香りです。
じゃあ、なぜいまのあゆはあまり香らなくなったのか。
戦後、全国的に、山に杉やヒノキばかりが植えられました。
それで、落ち葉がなくなったんです。
落ち葉は川の藻や海の栄養分になります。
いま、川は砂漠状態です。急流以外は砂だらけ。
砂に藻がほんの少し生えるだけですから、あゆが食べる藻が少なくなって、香らなくなったんです」
(↑ 岐阜市藍川橋の近くで獲れた鮎を塩焼きにする大将。この時期の落ちあゆは、肋骨が張っているので骨抜きが難しく、頭が最強に固いといます。
砂の入った肝があらかじめ抜かれていることは、素人目に全然わからない綺麗さ)
(↑ 大将が手に持っているのが「せいろ」。この木箱にあゆが詰められて競りにかかります)
4tトラックいっぱいのあゆが、市場へ届いたものでした
「うちはもともと魚屋で、私の代から料理屋になりました。
私が子どものころは、郡上から4tトラックであゆが市場に運ばれてきたもんです。
今日、市場に入荷したのはわずかせいろ70枚分のあゆ。落ちあゆは黒ずんでくるので、そのうち使えないあゆもたくさんあります」
「昔は、松茸もあゆも、当たり前に食卓にありましたよ。
いまは獲る人がいないから、市場に出てこないんです。
現役の川漁師はだいたい70歳以上ばかりになって、とても心配ですね」
(↑ 塩焼きはふっくら!/ ↑ 赤煮には川エビを添えて。たれは初代から注ぎ足し続けた秘伝のもの)
「それに、川の水かさが減りました。
中途半端な水位では、漁はできないんです。
水位によって、漁法も変わります。
14mを超えると漁ができます。
15mを超えると流し網ができます。
しかし大水が出たら、ゴミがかかるので流し網はできません。
長良川のあゆは世界遺産に登録されましたけど、先行きが心配ですね」
(↑ 魚田は岡崎の八丁味噌をまとっています。焼いて香ばしくした里芋は川の小石の景色を表現。
/↑ 独特のにおいのする15~18年ものの肝うるかは、おにぎりに塗って焼くと香ばしさだけが残り、魚醤に似た深い味わいに)
(↑ あげ焼の甘酢あんかけ。ぎんなんときくらげが腹に詰まった意外な一皿。味がしっかりした落ちあゆだから、こういった料理にも負けません
/↑ 雑炊は、水に加えたあゆから出ただしだけで「こんなに濃厚な旨みが!」と驚きます。焼いてから骨をとって加えてあり、骨ごと焼かないとこの味にならないといいます)
(↑ お口直しのデザート)
品数が多いのですが、すべての皿であゆの印象が変わるうえ、さっぱりとしているので食べ進みます。
1年分のあゆをいただいたのではないかというくらい、おなかいっぱいになりました。
子持ちあゆのおなかのパンパン具合に、人間も負けません。
香りまで贅沢で、あゆの世界がまだまだ奥深いことを知りました。
▷「獲れどころにこだわった濃厚な天然落ち鮎のフルコース」全5回、開催済