岐阜市民もほぼ知らない、夕暮れラッシュ時の足元。
長良川のアユは岐阜市で生まれ、岐阜市で命を終えます

命のキーワードは「16時47分」!?

 今年も岐阜市の長良川で「鮎の産卵を見る会」が開かれました。
会場となったのは、長良橋から400メートルくらい下流におりた元浜町の河原です。
日没を前に、集まった参加者は水中に設置されたカメラからの映像を囲み、
アユが産卵する瞬間を観察しました。

 フォトエコロジストの新村安雄さんが、27年前から毎年行っているこの催し。
ある時「アユはどこで生まれるのか」と聞かれたことをきっかけに始めたそうです。
やわらかい砂が河床にあり、産卵する場に適している岐阜市。
アユの産卵は、日が傾き暗くなってから始まります。

 日没の10分くらい前、16時47分に産卵を見ることができると新村さんは予告します。
夕闇が迫り、あたりの景色が刻々と変わるなか、ちょうどその時刻になると、
スクリーンに映しだされたメスのアユが卵を生み、オスが精子を放ちました。
まさに一瞬のことでした。
長良川のアユは、岐阜市で生まれて死ぬのです。
残る力のすべてを使い、新たな命を川に託して生を全うする。
会に参加した子供たちは解説を聞きながら、産卵の様子をじっと見つめていました。

↓ 動画(音声が出ます)

通勤通学の人々の足元に広がっていた、驚きの光景

河渡橋下
 別の日、岐阜市の長良川にかかる河渡橋を歩きました。
橋の上は、たくさんの車が行き交い、自転車に乗った人びとが通りすぎます。

 その橋の下で、腰まで川に浸かり水の中をのぞいてみると、
たくさんのアユが群れていてびっくり。
外とは異なる、別の世界が広がっていました。
川岸近くはゆるやかな流れのよどみになっており、
魚たちは産卵を前に体力を温存していたのかもしれません。


 水の冷たさに震えながら、しばらく観察を続けていると、
夕方のあるときを境に、ゆったりと泳いでいたアユの大群はぐんぐん泳ぎ始め、
どこかへ消えてしまいました。
産卵場に向かって、一斉に移動したのでしょうか。

 多くの人びとが暮らす町のなかで、アユの最期の営みが繰り返され、
長良川の冬は深まっていきます。