門外不出!幻の肉漬けvs鍋にも投入!切り漬け。雪で閉ざされた冬もこれさえあれば乗り切れる?寒い土地のお漬物は、生きるための知恵。郡上の山里で花開いた伝統の食文化。

寒い土地のお漬物は、生きるための知恵。
門外不出!幻の「肉漬け(にくづけ)」vs 鍋にも投入!毎日の「切り漬け(きりづけ)」まで、
雪に閉ざされる岐阜・郡上(ぐじょう)の華やかな発酵文化

 厳しい寒さに見舞われる岐阜県郡上市には、
冬を乗り切るたくさんの知恵が受け継がれてきました。
その一つが「漬物」。
寒さに身を縮めながらも「おいしい漬物があるんだった」と思えば、
冬もちょっと楽しく感じられます。

 岐阜・郡上の数多い漬物から、各家庭で作られている3つの厳選漬物をご紹介します。

豪雪地帯の郡上(ぐじょう)石徹白(いとしろ)地区とは?

 まずは、岐阜県郡上市、中でも私が暮らす石徹白(いとしろ)地区の説明から。

 私、近藤は3年ほど前に岐阜県の郡上市・石徹白(いとしろ)という美しい山あいの集落に移住して、アウトドア体験や地域活性のお手伝いをしています。

 岐阜市から北へ車で約1~2時間で到着する郡上市は、地域に量の差はあれど毎年降雪に見舞われます。
 いまは1年間で最も寒い時期です。

郡上の南の玄関口、観光客に人気の郡上八幡の街は、うっすらと雪化粧。

 

さらに長良川沿いを30分北に進むと、辺り一面が真っ白に。(郡上市白鳥(しろとり)町前谷あたり)

 

ここから更に30分峠を越えると、雪がどっさり積もった光景になってきます。
郡上市には10ヶ所余りのスキー場があるほどで、石徹白(いとしろ)周辺にもスキー場があります。

一時間移動するだけで、これほどまでに景色が変化する市町村は日本でも珍しいかもしれません。
雪が多かろうが少なかろうが、寒いものは寒い。
そんな冬の食卓には、漬物が欠かせません。

1郡上の定番|白菜の切り漬け

 畑の白菜が収穫を迎える11月ごろから、郡上の漬物シーズンが本格化します。
 一番多くの人に親しまれているのが「白菜の切り漬け」で、
赤かぶを一緒につけこむのが郡上流。

「かぶをいれたらちょっと赤ぅなって見た目もええんや」と、
おばさんたちは微笑みます。

 シンプルに塩だけで漬ける場合もあれば、昆布や唐辛子などを使う家庭もあります。
漬ける期間や室温によっても酸味や歯ごたえが変わります。
今回頂いたものは、唐辛子入りと柚子皮入りの2種類。
どちらもしっかりと酸味がきいており、歯ごたえも抜群で、ついつい日本酒が進んでしまう味でした。
 美味しさを引き出すコツは、重石だそうです。
「しっかり重くないと上手く漬からんのな。漬ける野菜の2倍くらいの重さを目処にしてみて」とのこと。
できた漬物は、そのまま食べても、焼いたり煮たりして食べてもよし。
……ん?焼いたり煮たり!?
地元民がこよなく愛する、切り漬けを使った鍋

 地元の家庭で定番のメニュー「味噌鍋」、またの名を「味噌煮」。2年近く熟成した、塩気の強い豆味噌「郡上味噌」と、煮干しだしの鍋に、切り漬けを投入。この相性が抜群なんです。少し漬かりすぎて酸っぱいくらいの切り漬けがあいます。塩分だらけになってしまうので、切り漬けは鍋に入れる前に水で塩抜きをします。あとはお好みの野菜やお肉(猪肉なんて最高!)を入れてクツクツ。
香りでは漬物ということはわからないくらいですが、シャクシャクした白菜の歯ごたえが濃い味噌の味に負けず、うまみがいっぱいです。

2郷土の味|にしんずし

 次は、奥美濃地域(白鳥町・高鷲町)の食卓に欠かせない「にしんずし」。
これはいわゆる、麹をつかって魚を保存する「なれずし」の一種ですが、北陸地方でつくられる「魚が主役」のなれずしとは異なり、郡上はごはんがたっぷり入っているのが特徴です。

 ぐっと冷え込む12月に入ってから仕込み、年越しやお正月のご馳走としていただけるとパーフェクト!

 麹は「いずや麹店」、身欠きにしんや大根は「沢崎商店」(共に白鳥町)へと、
地元の商店に食材を買い出しにいきます。
「今年も漬けてくれるんか」と、店主のおばさんたちと季節の挨拶を交わすのも楽しみの一つ。

 にしんずしの材料は、身欠きにしん、大根、人参、麹、ご飯と塩。

 大根と人参を切り干し大根の細さにすりおろし、塩揉みでしばらく水切り。
にしんは3cmほどにぶつ切り。
炊いたご飯は人肌に冷ましてから麹と混ぜ合わせます。
これは、発酵速度をあげすぎないようにするための大事なポイント!

 水切りした材料を大きな団子を握るように両手で包み込むことで更に水をきり、
ご飯、にしんを混ぜ合わせて樽に敷き詰め、
しっかり重石をしたら仕込みは完了です。
 

 生でも食べられるのですが、焼いて食べるのが絶対的におすすめ
にしんのエキスが染み渡った大根と白米が軽く焦がされると、室内は香ばしい匂いで満たされます。
でてきた水分が飛び、すしが茶色くなったら食べ頃です。

 大部分を食べたからといって、間違っても水でふやかしたりしないように。
フライパンに残っているお焦げこそ、みんなが狙っている「美味しいところ」です。

3幻の伝統発酵食|肉漬け


 最後は、郡上の豪雪地帯・石徹白(いとしろ)地区に伝わる「肉漬け」。

 実はこれ、生肉の漬物なのです。

 昭和36年頃、石徹白の旅館に泊まっていた韓国人労働者から
教えてもらったことが始まりとされています。
現在に至るまで地区外には不出、且つ非売品であるため
「幻の伝統発酵食」ともいわれています。

 半年間雪に閉ざされる石徹白にとって、
特に除雪車もない頃は、漬物は長期保存食であり、
生き延びるための不可欠品だったのです。
 

肉漬けの仕込みの様子(「いとしろカレッジ」の講座にて)

 レシピは口外禁止なので詳細はお伝えできませんが、
主な食材は白菜、肉、にんにくです。

 当初は鶏肉でしたが、現在は牛肉や豚肉などでも漬けています。

 肉漬けの特徴は匂い。
漬け樽からも、焼いて食べるときもキムチのような強い匂いが広がります。

 しかし、このパンチの効いた味こそが冬を乗り切るパワーをくれるのです。
「冬が来た!春が来るまでこれで乗り切るぞ!」と、
心の中で叫んでいるのはきっと私だけではないはず。
実際、去年は4月末ごろまで、食べていました。

 石徹白では、家庭の味を試食し合う「肉漬けParty」が3年前に開かれるなど、
肉漬けが幅広く浸透しており、
帰省してくる家族や民泊で来る中学生に喜んでもらおうと、
多くの住民がせっせと仕込んでいます。

 石徹白の旅館などでは冬の特別メニューとして提供することもありますので、
興味がある方はお問い合わせを。
2月17日(土)には同地区で「星降る里のキャンドルナイトinいとしろ」が開催されるので、イベントにあわせて訪れるのもいいですね。

 以上、郡上の漬物3種類の紹介でした。

さいごに

 これらの他にも、多種多様な漬物が郡上各地で親しまれています。

 それらを巡ると、野菜が育たない厳しい冬にあって、
いかに生き延びるかという視点から始まり、
また限られた食材でいかに食卓を賑やかに楽しむかを
創意工夫してきた結果なのだと感じます。

 そうして家庭に受け継がれてきたものを食べさせてもらっていると思うと、
「なんて豊かなんだろう」と、心から温まってくるようです。


 漬物がお好きな方は、郡上の飲食店に通ったり、お店で購入したり、
場合によっては郡上に知り合いをつくったりしながら、
自分にとっての「冬の味」を見つけてみてはいかがでしょうか?

 「寒さ」という必要不可欠な要素がありますが、
その味を目指して漬けてみるのもきっと楽しいですよ。

◎関連リンク:本文内で、肉漬けの作業体験を行っていたいとしろカレッジとは?

自然と共に暮らしてきた土地、石徹白(いとしろ)の、
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