「野生の起業家」インタビュー 関③
世界に誇る関の刃物を、こだわりたっぷりのデザインで
プロダクト・デザイナー/岐阜県関市
山本 愛子(やまもと あいこ) さん
関市ののどかな町で生まれ育った山本愛子さんは、大学を卒業後、しばらくは都内のデザイン会社に務める都会暮らしでした。しかしながら、帰省する度に、当たり前のように自然に囲まれていた暮らしのありがたみと魅力に改めて気付き、かつて過ごしてきた岐阜にUターンを決めました。
一方で、子どものころからものづくりが好きだった山本さんは、「もっと自分のペースでものづくりに携われる働き方ができたらいいな」という想いも強まっていました。そこで、Uターンを機に、特に生活雑貨のデザインを手がけるプロダクトデザイナーとして独立しました。
独立後の代表作は、地元関市の刃物店「志津刃物」とともに制作した包丁“ゆり”と“やまと”です。山本さんはプロジェクトの立ち上げ段階から携わりました。
特に“ゆり”は、これまでにありそうでなかった「女性向け」デザインの刃物。刃を薄く仕上げることで、あまり力を入れずともスッと切ることができたり、木でできた持ち手部分が女性の手でも握りやすい太さに設計されていたり。志津刃物の女性社員たちと幾度も議論や試作を重ね、女性が使いたくなるような刃物を完成させました。
プロジェクトの背景には、「一人暮らしを始める娘に持たせられる包丁を作りたい」という母としての想いもありました。
日常生活の中には欠かせない包丁ですが、いざ周りを見渡してみると、そのデザインの幅には意外と限りがあると感じたそう。娘には実家の包丁を持たせることも考えましたが、せっかくなら特別な包丁を渡したいという気持ちが、志津刃物との制作にかける情熱につながりました。
今となっては志津刃物の看板商品となった“ゆり”と“やまと”ですが、商品として形になるまでには困難もありました。そもそも女性メインで進めるプロジェクト自体が志津刃物でも珍しい取り組みだったこともあり、他の社員から先行きを不安視する声もちらほら。どんな小さな選択にも都度説得が必要になることもありました。それでも山本さんは、「自分たちが素敵だと思えるデザインを形にしたい」という信念のもと、社員とともに一丸となって、一歩一歩着実にプロジェクトを進めていきました。
こうして生まれた刃物たちは、日常使いはもちろん、贈答用としても愛されています。
そもそも包丁は、「贈り物にすると縁が切れる」という昔の言われもあり、かつては贈答用としての馴染みがありませんでした。しかし、山本さんは「むしろ包丁は親しい人にしか贈ろうとしないだろう」という考えのもと、刃物一つ一つを美しい桐箱に梱包するなどして、思わず人に贈りたくなるようなデザインに仕立てあげました。
また、自然を大切にする山本さんならではのこだわりも隠れています。中に入っている商品名の紙は、片面ずつに“ゆり”と“やまと”が記されています。これにより、一枚の紙でもその面を変えるだけで別の名前を表現できるので、無駄が出ず環境にも優しいのです。
一度都会に出たからこそ気づいた自然の大切さを胸に、山本さんは今日もこだわりを重ねたデザインを世の中に生み出しています。
学習者の皆さんへ
「生活のなかに心地よさを感じてほしい」というモットーがにじみ出る、こだわりのたっぷりの作品の数々。これは、「生活も仕事も、自然のままで」という信念のもと、無理なく心地の良い生活を着実に実現してきた山本さんだからこそできることです。
そんな山本さんが皆さんに願うことは「自然であることや、無垢な素材を使っていくことの気持ちよさを実感してほしい」ということ。
文明の発達により、加工技術や特殊素材も年々増えていく昨今。特に都内に暮らしている場合には、なかなか自然のありのままを感じる機会は限られているのではないでしょうか。
だからこそ、「何も手を加えていないありのままの自然素材の香りや手触り、そこから感じられる癒し、気持ちよさに気づいてくれたら嬉しい」という山本さん。自身が一度都会に出たからこそ、改めて自然の大切さや、それらが人間にもたらす役割に気付けた山本さんだからこその強い想いがあります。
自然豊かな岐阜では、ぜひそんな部分にも着目しながら旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。
〈 関連リンク集 〉
■製品の紹介│ゆりとやまと
『有限会社 志津刃物製作所』公式サイト
https://www.shizuhamono.net/%E8%A3%BD%E5%93%81%E3%81%AE%E7%B4%B9%E4%BB%8B/%E3%82%86%E3%82%8A-%E3%82%84%E3%81%BE%E3%81%A8/
■志津刃物製作所の包丁特集 | 人気のパン切り包丁や女性におすすめのゆり菜切型や三徳包丁など。
FavoriteStyle
https://shopping.geocities.jp/favoritestyle/feature/contents/shizuhamonoy.htm