「野生の起業家」インタビュー 美濃①

和紙を素材からアートに。可能性を拓く和紙職人

手漉き和紙職人/岐阜県美濃市

千田 崇統(せんだ たかのり) さん

背伸びをして、知らない世界に飛び込もう

長良川の分流、板取川はその綺麗で透明度の高い水流が有名です。白さ、美しさが肝となる美濃和紙は、この水の綺麗さがあってこそ。

しかし千田さんの漉(す)く美濃和紙は、真っ白なものばかりではありません。

千田さんが和紙職人となった初めの頃は、業者からの受注にあわせ、化学漂白を施した大量の白い和紙をただひたすらに漉き続ける日々でした。

「白い和紙は美しい。でも、そればかり並べても美濃和紙の魅力は伝わらないのではないか?」

誰が何に使っているかもわからないまま、ただ大量に同じ和紙を漉き続けている中、こうした想いが芽生えた千田さんは、美濃和紙の魅力を次世代にもつなげていくべく、これまでにない新しい美濃和紙を漉き始めました。

それが、千田さんが生み出す、異素材を混ぜ込んだ美濃和紙です。
一般的に和紙は、楮(こうぞ)という植物を原料にして作られるまっさらな紙ですが、そこに竹や炭、クリスタルなどの異素材が混ぜ込まれているのが大きな特徴です。様々な異素材とのコラボレーションによって、千田さんの制作する美濃和紙は唯一無二の存在となっています。

千田さんの事業はこれだけにとどまりません。
美濃和紙の魅力について「ただ見るだけでなく、体感してもらった方がこの感動が伝わる」と感じたことから、美濃和紙を存分に楽しめる宿泊施設『WarabeeLand(ワラビーランド)』を新たに立ち上げました。

美濃市の集落にある古民家をリノベーションしたこの施設は、和モダンな雰囲気が印象的。
壁、床、カーテンに至るまで、部屋中が千田さんの漉く美濃和紙で出来ている本施設では、まさに「和紙にまみれる」、貴重な体験ができます。

また、“本格的な”和紙漉き体験を提供するのも千田さんならではのこだわり。
よくある簡易的な和紙漉きではなく、和紙職人と同じような工程で時間をかけて和紙を作り上げます。

今後の展望としても、「少人数に対し、しっかりと紙漉きに向き合える体験を構想している」と話す千田さん。
一人ひとりがより紙漉きに向き合える体験ができれば、千田さんに続く新たな和紙職人の担い手も生まれるかもしれません。
また、近年では日本の伝統工芸の一つである和紙には、特に海外の人々からも熱い視線が集まっており、こうした特別な体験による外国人観光客の増加にも期待できそうです。

学習者の皆さんへ

「もっと遊んでいい(もちろん、勉強も大事だけど)」。

楽しく遊びながら色々なことを経験すると、その分選択肢も増えていくからです。
そしてその遊びの中で見つけた「好き」が、結果として仕事につながっていくこともあります。好きなことを仕事にできたなら、人生はより楽しくなっていくでしょう。

千田さん自身も若いころは、クラブへ行ったり、世界各地を旅したりというように、遊びを楽しんできました。
千田さんは「クラブでの遊びが今につながっているかというとそんなことはないけど」とした上で、「遊びだからこそ行ける場所や会える人がいる。知っているほど選べる選択肢の幅も広がっていく」といいます。

はじめから固定的な視点にとらわれず、まずは色々な世界を知って選択肢を広げておくことが大切だといえます。

また、この遊びの延長では、「ちょっと背伸びして冒険してみること」も大切だという千田さん。
等身大の自分から少し背伸びをして挑戦してみることは少し緊張しますが、そこに飛び込んでみると見える世界があります。そしてこの挑戦こそが自分にとって忘れられない記憶となり、自信にもつながります。

千田さん自身は、大学卒業後、そのまま和紙職人になったわけではありません。
世界を旅して様々な価値観を肌で感じたのち美濃に戻り、和紙作り体験の業務を半年ほど担った後、その縁で和紙漉き職人の後継者を探していると連絡があったことをきっかけに和紙職人を志しました。

これは千田さん自身が何かにとらわれず、興味の赴くままに楽しみながら過ごす中で広げた選択肢の中で、意思決定した結果といえましょう。
「遊んでるのか仕事しているのかわからないくらい仕事も楽しめたら最高」。
そんな千田さんのマインドには、遊びと仕事を切り離さずどちらも人生として楽しんでいくという気概が垣間見えます。

高校生の皆さんは、今のうちに色々な物事や世界観に触れ、自分の「好き」や「楽しい」というアンテナを鋭くしていく意識をしてみてはいかがでしょうか。

〈 関連リンク集 〉

■『Warabee Land』公式サイト
https://warabeeland.com/

■「日本全国工芸百科事典 美濃和紙とは 1300年の歴史をもつ日本三大和紙の実力」
中川政七商店の読みもの
https://story.nakagawa-masashichi.jp/craft_post/117548

■「グローカル外交ネット 美濃和紙について」
外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/local/page23_003559.html