「野生の起業家」インタビュー 郡上①

原料から岐阜県産。こだわりが重なる現代のおどり下駄

下駄職人/岐阜県郡上市

諸橋 有斗(もろはし ゆうと) さん

自分のやりたいことや、好きなことを突き詰めること

400年以上の歴史があるといわれている「郡上おどり」は、1996年に国重要無形民俗文化財に指定され、2022年にはユネスコ無形文化遺産にも登録されている伝統文化です。7月中旬から9月上旬にかけて30夜以上にわたり開催される盆踊りで、中でも夜通し踊り続ける「徹夜おどり」は有名です。参加型というのも特徴の一つで、年齢や性別を問わず、地元の人も観光客も一緒になって踊ります。

この郡上おどりに欠かせないアイテムが「おどり下駄」。カランコロンと軽やかな音を出しながら踊ります。日常だと少し馴染みの浅い下駄ですが、踊りに参加する観光客にも気軽に親しんでほしいと、洋服にも合わせられる現代的なデザインで展開するのが「郡上木履」の諸橋有斗さんです。

諸橋さんは、子どもの頃から好きだったものづくりを仕事にすべく、岐阜県にある専門学校で木工を学んだことがきっかけでおどり下駄に興味をもちました。その中で、こんなに長く伝統が続く踊りに使われる下駄であるにも関わらず、下駄の原料である木材がほとんど海外輸入頼りであるという事実を知りました。

「郡上には豊かな森林もあるのに、そこで採れる木材を使わないのはもったいない」
そう課題感を覚えたことから諸橋さんは郡上への移住を決め、主に郡上おどりで用いられるおどり下駄の企画・製造・販売を行う「郡上木履」を起業しました。

諸橋さんの作る下駄は「メイドイン岐阜」。原料には、良い音が出るようヒノキを使用していますが、そのすべてが郡上市内や岐阜県内のものです。地域で採れる木材を地域で活用する、地産地消のサステナブルな流れを作ることで、地域の林業発展にも寄与しています。

また、可愛らしい鼻緒のデザインは、岐阜のデザイナーによるものや、郡上で有名なシルクスクリーンや藍染などの技法が使われており、ここにもこだわりが表れています。
徹夜でおどり続けても簡単に壊れてしまわないようヒノキの木目を丁寧に見極めたり、店舗にある100種類ほどの鼻緒を目の前ですげてくれたりと、一足一足丁寧に作られる諸橋さんの下駄は、観光客や地域の人からも愛されています。

郡上おどりの開催期間中には、諸橋さんのお店の前も踊りのルートになります。そこで、諸橋さんが手がけたおどり下駄や、それを履いて踊っている人々の姿を見ることが、諸橋さんのやりがいになっています。

学習者の皆さんへ

「自分のやりたいことや、好きなことを突き詰めること」への意識を磨いていくことが大切だと話します。

これには、諸橋さんが木工を学んだ時代の恩師に言われた「仕事になることは、自分のやりたいこと・社会から求められること・自分にできること、この3つが重なる部分である」という言葉が影響しています。この3つのうち何かが欠けてしまうと、なかなか良い仕事としては成立しないといえましょう。

この言葉も踏まえ、諸橋さんは「やりたいことを、できることに変えていく」意識をもっていくことが、今後のキャリアを描いていくうえで大切だと考えています。

諸橋さん自身もスタートはものづくりが好き、という自身の気持ちからでした。
現在では、恩師の言葉が唯一無二の下駄の制作につながり、郡上の伝統を守り続けています。

社会から求められることはこの先も変わっていくかもしれないけれど、好きなことを突き詰めていけば、それが結果として仕事につながっていくこともあります。
自分自身が本当にやりたい仕事やキャリアを描くためにも、まずは自分の好きを極めることから始めてみましょう。

〈 関連リンク集 〉

■『郡上木履』公式サイト
https://gujomokuri.com/

■「郡上おどり」
郡上八幡観光協会
http://www.gujohachiman.com/kanko/odori.html