「野生の起業家」インタビュー 岐阜③

“岐阜愛”が原動力。職人×ガイド×船頭として地域を支える

提灯職人/岐阜県岐阜市

山下 章(やました あきら) さん

岐阜提灯職人の山下章さんは岐阜提灯の製造・販売を行う「ジャパン・ランタン・インダストリー」を立ち上げ、現在はその代表取締役として活躍しています。それまでは提灯販売店に勤めていた山下さんですが、岐阜提灯について調べていく中で「約100年に一度、さまざまな理由により伝統が途絶えてしまう歴史を繰り返している」という岐阜提灯の歴史を知りました。

ライフスタイルの変化とともに徐々に提灯を使わなくなっている現実もあり、「このままだと、岐阜提灯が衰退してしまい、また歴史が繰り返されてしまう」という危機感を覚えた山下さん。伝統の存続の危機に対し、何か継続的にできることはないかと考え思いついたのが、「岐阜提灯の制作・絵付け体験」でした。

前提として、岐阜提灯の制作工程は一つ一つが職人による手作業で行われます。まず型を組んだら、らせん状にひごを巻きつけ、その上から和紙を貼り、日陰で乾燥させ、最後に絵を描いて仕上げていくのです。このように職人が丸二日間ほどの手間をかけて一つ一つ作り上げるものだからこそ、一般的な人々が体験として楽しめるようにするというアイデア自体、これまでにないものでした。

また、岐阜提灯の絵付けには細かい決まりがあります。お盆の時期のお供え物として扱われるため、動物を描くことはタブーで、風景や草花などが描かれるのが基本です。しかし、山下さんは「提灯は楽しんで使ってもらうほうがいい」と、その慣習を取り払い、自分の好きなものを提灯に自由に描ける絵付け体験をはじめて考案しました。

さらに山下さんは、提灯の乾燥時間を短縮することで制作過程を1日に凝縮し、老若男女問わず様々な観光客が、型組みから絵付けまでを気軽に体験できる機会を提供することができました。
提灯職人が行う一連の流れを体験できる場所は全国的にも珍しく、現在はここ「ジャパン・ランタン・インダストリー」しかありません。

「これまでの伝統を取り払うことには勇気がいるが、誰かが思いきらないと後に続いていかない」。
特に山下さんの場合は、伝統の存続に対する危機感が原点にあったため、「何かにとらわれて何もできないのは嫌だ」という強い信念がありました。そのため山下さんは、型にとらわれることなく、より多くの人が岐阜提灯に楽しみながら触れられる機会を創出することができたのです。

また、体験の実現と同時に提灯職人を志した山下さん。現在では、地域の観光ガイドから鵜飼観覧船の船頭まで担う提灯職人です。
これほどマルチに活躍する山下さんの根源にあるのは「とにかく岐阜が好きだから」という気持ちです。好きだからこそ、守るためならいくらでも頑張れてしまうのです。山下さんは今日も“岐阜愛”を原動力に、岐阜の大切な伝統や歴史を後世に伝えていきます。

学習者の皆さんへ

「本当に小さなことでもいいので、興味をもてることを何か一つでも見つけてみる」。

岐阜がもつ魅力への気づきが積み重なったことが、結果として現在のキャリアにつながった山下さん。そんな自身の経験を踏まえ、山下さんがおすすめするのは、自分の住まいや学校の周辺地域で「何か自分が、ぐっと興味をそそられるもの」を見つけてみることです。
見つかった一つの物事をもっと調べて探究していくと、新しい発見やさらに面白いと思えることが出てくるかもしれません。ひょっとすると、これまで当たり前だと感じていたことも、新たな発見につながることもあります。

今回皆さんが訪れる岐阜県についても、ただ旅行客という立場で訪れるのではなく、何か面白いと思えることや興味をもてることを見つけて、深掘りしてみてはいかがでしょうか。

〈 関連リンク集 〉

■「岐阜提灯とは」
岐阜提灯協働組合
https://www.gifu-chochin.or.jp/about/

■「日本でここだけ!まるっと職人体験 一から作るミニぎふ提灯」
長良川めぐるツアーズ
https://meguru.tours/archives/100