「野生の起業家」インタビュー 岐阜①

今もなお、前例のない挑戦をし続ける川漁師

川漁師・川漁体験企画/岐阜県岐阜市

平工 顕太郎(ひらく けんたろう) さん

自分に、相手に、地球に正直に生きる

長良川とともに育った平工顕太郎さんは、幼いころから身近に川の存在があったことが影響して、自然や環境を大切にする想いをずっともっていました。そのため進学先の大学では、アユを中心とした海洋生物について研究をしていました。

大学へ進学したことで、これまで当たり前に思っていた「長良川といえば、鮎」という周りからのイメージにも改めて気付かされたという平工さん。これをきっかけに、地元の内水面漁業に貢献しようと岐阜に戻りました。

そこで平工さんが衝撃を受けたのは、長良川の漁師に65歳以下の方が一人もいないという事実を知ったとき。自然を相手にする厳しい職業、川漁師。このまま漁師の高齢化が進み、下の代が入ってこなければ、長良川を代表する鮎の伝統が本当に途絶えてしまうー。そんな課題に気づき、「自分ができることはやっておかなくてはいけない」という使命感を強く覚えました。

これを機に、地元の漁業を支えることで、長良川の名産である鮎を守り広めていこうと、平工さんは川漁師になる道を選びました。そうともなれば、大事な予定が入っている日でも漁が第一。例えば雨が降った日には、木でできた漁船内に溜まった水を「アカトリ」という道具を使って手作業でかき出さなくてはなりません。舟を守るために命を落とすことさえあるという事実も、自然相手の職業ならではの困難さを表しています。

そんなただでさえ条件や仕事内容が厳しい川漁師を、ゼロから目指すことは前例にない挑戦です。基本的には家族を代々継いでいくことが多いため、平工さんが歩む道のりはもちろん簡単なものではありませんでした。川漁師となる段階は明確に示されておらず、道具も一切持っていなかったので、平工さんは自分で道を切り拓きながら、一つひとつ着実に努力を重ねるほかなかったのです。

右も左もわからないはじめのうちは、先輩方に色々と聞きながらひたすら学び続けた平工さん。ところが、ある時先輩に「人に聞いとるうちはあかんぞ」とガツンと言われたことをきっかけに、もっと自ら主体的に行動しなくてはと奮い立ちました。

以降平工さんは、川漁師を目指すのとあわせて、本格的に川漁師として生きていくための試行錯誤を始めました。まずは魚介類の直売システムを確立することからはじめ、様々な鮎料理を楽しめる飲食店の経営、さらには川漁師の船に乗れる旅客船「ゆいのふね」の立案から運営まで行うなど、ただ漁をすることだけにとどまらない取り組みが行われています。

モットーとして「人から “すごいね” と言われるよりも、地球から “ありがとう” と言われる暮らしへ」を掲げながら、平工さんは自然への想いも大切に、これまでにない新しい川漁師の在り方を日々実現し続けています。

学習者の皆さんへ

「自分に正直に生きていく」。

平工さん自身も、ゼロから川漁師を目指すという前例のない挑戦をした際には、周りから心配の声も少なくありませんでしたが、自分の思い描く未来に向かってまっすぐに進みました。

このように、特に新しいことを始める場合には、ときに周りからの反対もあるかもしれません。
しかし平工さんのように、自分自身に正直に向き合い続けると、本来やりたいことが仕事にもつながり、そして目的の達成にもつながります。

自分がすでにもっている「やりたい」、「成し遂げたい」という意志は抑え込まず、自分の気持ちに正直に向き合うことが大切なのではないでしょうか。

〈 関連リンク集 〉

■「結の舟」公式サイト
https://warabeeland.com/

■「いいもの探訪 結の舟 美濃国の天然鮎鮓(鮎のなれずし)」JR東海
https://e-mono.jr-central.co.jp/shop/g/gGF020360001/