「野生の起業家」インタビュー 郡上③
石徹白に伝わる伝統着を復刻、そしてアップデート
ファッション・ブランド代表/岐阜県郡上市
平野 馨生里(ひらの かおり) さん
かつて白山信仰で栄えた山間にある秘境、石徹白(いとしろ)地区。郡上の市街地から離れたこの土地に「石徹白洋品店」はあります。石徹白洋品店の特徴は、農耕作業時に用いられる作業着、いわゆる野良着をベースにした独自のアパレルを展開していることです。
代表を務める平野馨生里さんは、大学在学中にふるさとである岐阜市のまちづくり活動に関わりました。そこでさまざまなことを学び経験していくと、自分が思うより深刻だったのは、都心への人口流出、地域の過疎化でした。
この先も岐阜で暮らしていけるように何かできないか......。そんな意識を抱えながら、岐阜のまちづくりに関わる仲間たちを集めた勉強会を始め、問題解決への議論を進めました。その中で“「衣食住・エネルギー・福祉・教育」はある程度地域の中で完結しないと、地域が疲弊して人口流出は止まらない”という結論に至りました。
その後、河川を活用して電気エネルギーを生成する小水力発電の可能性を探るべく、石徹白地区を訪れました。これをきっかけに、現存する豊かな自然や人々の温かさに魅了されたという平野さん。元々は「石徹白」の読み方さえも知らなかったのですが、「ここに住みたい」という直感的な想いが背中を押し、移住を決めました。
いざ石徹白で生きていくための仕事を考えていくにあたっては、平野さん自身がもともと服好きだったのもあり、衣食住の「衣」に関わる仕事を志します。裁縫は苦手だったという平野さんですが、毎日身につける衣服を自分で作ることができたら、という想いで服飾の専門学校に通い、一から洋裁を学び始めました。
一方、自然と共生する石徹白での暮らしの中で、ある時平野さんは「たつけ」に出会います。たつけとは、農作業時に着用されてきた石徹白に伝わる伝統的なズボンで、お尻あたりにゆとりがあるものの、足裾が絞ってあるため動きやすいのが特徴です。
たつけに興味をもった平野さんは、地域に暮らすおばあちゃんからその制作技法を教わります。驚いたのは、たつけは直線裁断で作られるために、無駄な生地がほとんど出ないこと。
現代の洋服はカーブで裁断するために製造過程で大量のハギレが出ます。アパレル作業の大きな問題である布の廃棄を、洋裁を学ぶ中で痛感していました。そんな時、たつけと出会い、「この伝統を残していかなくてはならない」と強く感じたそうです。
今となっては、石徹白洋品店の代表的なアイテムとなったたつけ。他にもいくつかラインナップがありますが、そのすべてが石徹白に伝わる伝統着がベースです。また、そのどれもが現代のファッションにも合う洗練されたデザインとなっており、普段着としても馴染みます。
独特の柔らかな色合いも、平野さんのこだわり。
染料には、藍やマリーゴールド、ヒメジオンなど、石徹白の地で採れる植物が使われています。自然由来の染料は肌にも優しく、また一着一着で微妙な色味の違いも楽しめるため、その特別感がファンを魅了します。
「採れる素材の変化や収穫の準備があるので、季節に追われる忙しさはある」と、染めの大変さを語る平野さん。大変だけれど「季節の変化」を感じられることそのものが、暮らしの中の楽しみであり、生きている充足感につながるといいます。
平野さんが知らなければ、石徹白で静かに消えてしまっていたかもしれない伝統。石徹白洋品店を通じて、平野さんは今日も石徹白の暮らしと伝統を守り伝えます。
学習者の皆さんへ
とにかく「自分を知ること、探すこと」が大切だと語る平野さん。
「何をやりたいの?」と聞かれた時に、どうして自分がそれをやりたいのか、なぜそれを自分が取り組みたいのかを理解しておくことが大切です。それには、自分の育った環境や家族のこと、きっかけとなった出来事を整理して考えておくと良いでしょう。
そうすることで、悩んだり壁に当たった時に、乗り越えることができるし、また別の道を選ぶなど試行錯誤することができます。やりたいことは、ただの思いつきではなくて、きっと、自分のこれまでの経験が影響していると思うのです。
あるいは、「やりたいこと」を誰もが見つける必要はないのかもしれません。テーマを見つけることが大切なのではなくて、自分がどう生きたいのかを自問自答することこそが大事なことかもしれません。
それは、仲間と共に問題を解決していくことが好きな人もいるかもしれない。誰かをサポートすることが生きがいの人もいて、それもとても素晴らしいことです。
「何をやっていいかわからないと悩んだときこそ、自分自身をよく知ることで解決することがある」。
悩んだときに立ち戻れる芯をもっておくためにも、自分を知ることが重要なのです。まずは、自分自身がどんな考えや想いをもっているのかを見つめることから始めてみると、これから先の将来できっと役に立つ軸が見えてくることでしょう。
〈 関連リンク集 〉
■『石徹白洋品店』公式サイト
https://itoshiro.org/
■平野馨生里さんの公式note
https://note.com/itoshiroyohinten
■石徹白公式ホームページ
https://itoshiro.net/