「野生の起業家」インタビュー 郡上②

IT業界からの転身。郡上の狩猟文化を守り広める〝猪鹿庁〟代表へ

猟師・狩猟講座運営/岐阜県郡上市

安田 大介(やすだ だいすけ) さん

好きなことに貪欲に

京都の丹波篠山、伊豆の天城、そして岐阜の郡上八幡。イノシシの日本三大産地の一つである郡上市は、かねてより狩猟が盛んに行われてきた地域です。

一方で、狩猟の担い手も年々減っていたりと、課題も明らかになっている現状もあります。
そこで、より多くの方が狩猟やジビエ(狩猟で捕獲した野生鳥獣を使う料理)に親しめるよう、ツーリズム体験を中心として様々な取り組みを行うのが里山保全組織「猪鹿庁」です。

現在は6つの課からなる「猪鹿庁」。
もともとの始まりは、2009年に発足したNPO組織内の里山保全事業部からでした。

当時の主な事業としては里山の保全がありましたが、せっかくベテランの猟師も多く存在しているこの郡上で、もっと狩猟を盛り上げたいという想いから、イベントなどの活動をし始めたことが、現在の猪鹿庁の母体となりました。

そこに途中から合流したのが、安田大介さんです。
現在では猪鹿庁の代表を務める安田さんはもともとは、名古屋のIT企業のサラリーマン。仕事内容や収入だけでは、どこか心が満たされない気持ちを抱えながら、業務にいそしむ日々を過ごしていました。

そのかたわら、趣味として全国の川を下る中で、長良川のもつ別格の美しさに魅了されたといいます。
平日に都会で疲弊した心が、自然に囲まれると生き生きするような感覚を覚えた安田さんは、子どもが生まれるタイミングだったということもあり、改めて仕事、そして人生を考え直しました。

そこで気づいたのが、「父親が楽しそうに仕事をしていない姿を見せたくない」「自然にもっと関わりたい」といった願望です。

その願望に気づいたとき、まずは名古屋での仕事を辞め、移住をすることを決めました。
移住先としては、他の候補地とも迷う中で郡上市に決定。
なぜなら郡上市には川下りで魅了された長良川があり、そして狩猟の歴史も残っている地域だからです。当時、新たに趣味として猟を始めようとしていたタイミングでもあったため、安田さんにとっては絶好の地域でした。

そんなタイミングで、郡上に「狩猟を盛り上げていこう」という動きがあることも知った安田さん。現在の猪鹿庁が、新しいメンバーを募集していたのです。

「住みたい地域で、やりたいことができる」

募集を見て、そう強く感じた安田さんは、募集期間は過ぎていたものの履歴書を送ってみたことで当時の代表とも意気投合し、現在の猪鹿庁に合流することになりました。

現在では、自然に囲まれた充実した生活を送りながら、猪鹿庁の代表を務めています。
「いずれは、狩猟を釣りと同じぐらい身近なものにしたい」と語る安田さん。
そんな夢を胸に、新たな構想も描きながら今も様々な狩猟の可能性を探り続けています。

学習者の皆さんへ

「好きなことに貪欲に」。

安田さんはこの気持ちを大切にしてきたことで、夢中になれることや興味のあることという点と点が線でつながっていく感覚を覚えたといいます。

Apple社の共同創業者スティーブ・ジョブズの言葉にある「Connecting the Dots(点と点をつなぐ)」に重ねそう振り返る安田さん。一見、つながりや関連性のないことでも、好きだと思えることに触れたその経験そのものが後々に、思わぬところで役に立つことがあるのだそうです。

安田さん自身でいえば、趣味の一つでもある写真を生かして、猪鹿庁の活動における一コマをとても魅力的に切り取りながら、IT企業での経験を生かし、ウェブなどで広報活動にも力を入れています。まさに点と点が線でつながっているといえましょう。

なお、現在は自然に囲まれながら、日々満たされた生活を送る安田さんですが、一つ皆さんに押さえていただきたい重要なことは、これはあくまで安田さんが自分らしくいられる生き方であるということです。仕事と趣味は別々に切り分けるという生き方ももちろんありますし、どんな生き方が合うのかは人それぞれです。

皆さんにおいては、安田さんの生き方を一つのモデルとして参考にしつつ、今一度自分自身にしっかりと向き合って、一番自分らしく生きられる生き方を探すと良いのではないでしょうか。

〈 関連リンク集 〉

■里山保全組織『猪鹿庁』公式サイト
http://inoshika.jp/

■「ジビエ料理」
TABITABI郡上
https://tabitabigujo.com/appeal/localcuisine/gibier/